自律訓練法<後篇>

メンタル・イデア・ラボの本城ハルです。

後篇は、標準公式に次いで黙想練習についてお話します。

黙想練習は、常日頃の言語的論理思考からイメージによる視覚的思考をおこなっていくものです。第一黙想練習から第四黙想練習まであります。

かなり難しいです(笑)自律性状態を30分以上維持しなくてはいけませんし、うっかり寝てしまわないように気を付ける必要もあります。

自律状態とは、前篇で練習した①〜⑥の公式を身に付けていることで、黙想練習に取り掛かるためには、その状態へ短時間で移行できること、その状態を長時間保つことができないと・・・寝てしまいます。つい寝てしまいます。

私も5回に1回は寝てしまいました(笑)

それでは第一黙想練習(自発的色彩心象視)に取り組んでみましょう。

この練習は、目を閉じた時に視覚的イメージに自然に現れてくる色彩を意識してみるものです。

瞼の裏をスクリーンとして、色を感じるイメージです。

標準練習(前篇の①〜⑥)によって、四肢や練習部位に自然に意識を向け集中します。そして閉じた瞼の裏へ自然に意識を向けていくと(無理やり見ようとするものではありません)瞼の裏をスクリーンに、色が浮かび上がってきませんか?色を感じている、という表現が近いかもしれません。

いきなり全面に色が現れず、端のほうにだけ現れたり、次々と色が変わったり、複数の色が混ざり合って現れたり、さまざまな現れ方がみられます。焦点を合わせようとすると頭痛が起きたり、気持ち悪くなったりするので、飽くまで“色を感じる”を意識してください。

練習を繰り返していくと、視野全体に単一の色が瞼の裏というスクリーンに安定して見られるようになり、時間も長く維持できるようになります。

この色彩は人により異なり、個人色(パーソナルカラー)と言われます。この個人色は、似合う似合わないというパーソナルカラー、衣類のパーソナルカラー診断などとはまったく違うものです。私の個人色は薄青でした。

黙想練習の時間は40〜60分ですが、終了してみると日によって短く感じたり、いつもより長く感じることもあります。標準練習から引き続きおこなうと時間も必要になるので、うっかり寝てしまっても大丈夫なようにタイマーをセットしておくとよいでしょう。本来はうっかり寝てしまうと意味がなくなるので、覚醒していながら心身はリラックスしている状態を長く維持しなくてはならず、そのために<前篇>の標準練習が重要になってきます。

したがって、疲れ果ててグダグダな時には標準練習も黙想練習をするには良いタイミングではないということになります。

次に第二黙想練習(特定色彩心象視)に進んでみましょう。この練習は本来スーパーバイザー(指導者)が指定した色が見えるようになるための練習ですが、第一黙想で個人色が安定してイメージとして現れるようになってからの次のステップです。

スーパーバイザーがいなければ近しい人が指定する色を目指してもいいと思いますが、その場合、個人色に近い色を選択すると取り組みやすいでしょう。

自発的個人色が【青】であれば【青紫】【青緑】、【黄緑】であれば【黄】【緑】のような具合です。

こうしてイメージできる色のレパートリーを増やしていきます。指定された色がスクリーンに現れにくい時は、その色と関連した具体物をイメージしてみてください。例えば、【赤】を瞼スクリーンに見えにくければ、リンゴを思い浮かべる・・・という補助手段を取ります。

ここで大切なのは、飽くまで色彩に意識を向けることが第二黙想練習なので、リンゴという形態には捉われないということです。リンゴに意識が向き、詳細イメージをしないように気を付けるという意味で、目的は瞼スクリーンに【赤】をイメージし写し出せること、だからです。

第一黙想練習で2〜4週間、第二黙想練習では2週間〜半年程度と、人によりかなりの差があります。練習しても自転車になかなか乗れるようにならない人と、なぜかあっという間にコツを掴み乗れるようになる人の違いくらいと思ってもらえればいいでしょう。

次に第三黙想練習(具体物心象視)です。

この練習は特定の何かを見ようするものではなく、自発的色彩心象視のように、色彩の代わりに具体物が自然に閉じた瞼のスクリーンに現れてくるのを待ちます。

雑念から普段使っている馴染み深いコップが浮かぶ・・・ではなく、具体物は一般的なものとして見えてくるものが良いです。日常的な具体物として、例えば自転車、ペン、トイレットペーパーなどを選びましょう。具体物は人によりさまざまですので、やはり誰かが選んだものを心象視することが良いかもしれません。

はっきり具体物の心象視ができるようになってから、第四黙想練習(抽象概念心象視)に進みます。

抽象概念、ただでさえ難しいものを心象視しスクリーンに現れるようにするわけですから、ここはとても時間がかかる部分です。

『感情』『平和』『危険』『愛』『自由』『親切』『情熱』『平等』など、その人自身の中にある抽象的な概念を視覚化(閉じた瞼の裏スクリーン)していきます。これもスーパーバイザー的な人にお願いして、どんな抽象的なワードでどのような場面や絵、写真が浮かんだのか記録を詳細に取っていきます。

一連の黙想練習(心象視)の最終的テーマは、

自分の存在はどういったものだろうか?

自分の役割は?

自分にある最大の問題は何?

最も腹立たしいことは何だろう?

どうすれば今より良くなるか?

などを受動的注意集中を維持しながらイメージすることで、幾つもものステップを踏みながら、心身リラックス状態で落ち着いて考えられるようになるための訓練と言えます。

前篇の標準練習だけでも自律神経失調症には効果がありますので、ユルユルと取り組んでみてはいかがでしょうか。

自律訓練法<前篇>

メンタル・イデア・ラボの本城ハルです。

今回から自律訓練法について前篇、後篇に分けてお話します。

まず自律訓練法とは、ドイツの精神科医シュルツが【自然なリラックス状態の特徴が安静感、四肢の温感、重感(後述)】であることを発見したことから、それらの感覚を段階的に身に付けていくことで、心身のリラックスを得る目的として考えられた練習です。基本練習として標準練習が①〜⑥があり、次いで黙想練習、自律性修正法、自律性中和法、時間感覚練習、空間感練習、自律行動療法、自律フィードバック訓練法と進めていきます。

前篇では標準練習の公式⑥までを、後篇では黙想練習についてお話します。

標準練習は、公式化されたワードを反復暗唱しながら意識を集中させ、関連する身体部位に意識を向け、段階的に生体機能のチューニングを図るものです。

自律訓練法は、心身の緊張を和らげリラックスさせるものですが、残念ながら練習を始めたからといって、すぐに効果が表れるものではありません。

まず、標準練習を始める前にどのような環境でおこなうのが効果的かをお話します。

▶︎外界刺激の少ない場所で、適度な明るさと心地よい温度、静かな環境がよいでしょう。私は寝る前の静かな部屋で茶香炉を焚きながらおこなっています。

▶︎身体を圧迫する衣類ではなく、ネクタイやベルトなどは外したほうが集中しやすいと思います。

▶︎生体症状にも意識を向けていくので、空腹時、満腹時を避け、お手洗いも済ませておきましょう。

リラックスできる体勢であれば特に決まりはありません。ベッドに横になる、お気に入りの座りやすい椅子に座る、座禅・・・集中しやすくラクな体勢を考えてみてください。ただ、いくらリラックスできるといっても入浴中はオススメできません。

標準練習①〜⑥のベースになる練習として、気分を落ち着かせる、あるいはクールダウンさせるための【安静練習】ということから始めます。

リラックスした状態で、例えば『私は今とても穏やかな気持ちでいる』など、自分なりに気持ちをクールダウンさせる言葉を繰り返し暗唱していきます。環境音楽を流しながら、お気に入りのアロマを焚きながらでもいいでしょう。

ここで大切なのが『落ち着かなきゃ』と努力するのではなく、雑念が浮かんでも構いません。そのままの状態で心の片隅で『私は気持ちが落ち着いている』という言葉を繰り返していくだけで大丈夫です。

安静練習も標準練習も心の中で公式ワードの暗唱なので声に出す必要はありません。誰も見ていませんが、ブツブツ言っているとかなり怪しい人です(笑)安静練習の後から標準練習に入ります。

力を抜いたラクな体勢から・・・

①重感練習
『両腕・両足が重たい』
利き腕から始め、反対の腕に組み、足も同じように進めます。この重感とは、力が抜けてリラックスした時に感じる感覚を指し、人によっては『重だるい』『下に引っ張られる感じ』など感じ方はさまざまです。

公式ワード例:【右腕が重たい、左腕が重たい】と心の中で暗唱しながら、ゆっくり自己暗示をかける。足も同様に。

②温感練習
『両腕・両足が温かい』
重感練習により四肢の筋肉が弛緩すると、血流量の増大から皮膚温の上昇など生理的変化を得やすくなります。ここでも利き腕から順に進めていき、練習順序は、安静練習→重感練習→安静練習→温感練習となります。

公式ワード例:【右腕が温かい、左腕が温かい】と心の中で暗唱しながら、ゆっくり自己暗示をかける。足も同様に。

ここからは持病がある人には注意が必要となるので、主治医に相談しながらおこなうようにしましょう。

③心臓調整練習
『心臓が静かに規則正しく脈打っている』
『心臓が自然に脈打っている』
重・温感練習が十分習得できるようになると、脈拍数は減少し、落ち着いた状態になっていることが多いので、練習というより“静かに規則正しく脈打つ自分の心臓の状態”に意識を向け、気づく練習になります。いずれお話するマインドフルネスでも役立つので意識してみてください。

公式ワード例:【心臓が静かに規則正しく脈打っている】【心臓が自然に脈打っている】と心の中で暗唱しながら、ゆっくり自己暗示をかける。

④呼吸調整練習
『自然に呼吸(いき)している』
『とてもラクに呼吸(いき)している』
③の心臓調整練習と同じように呼吸に意識を向けるのですが、呼吸は随意神経と不随意神経から二重支配を受けているため、この練習を始めると呼吸に注意が向き過ぎて不自然になってしまうことがあります。そのような時は、呼吸に軽く注意を向けて練習をし、不自然、違和感を感じない程度にしてください。

公式ワード例:【自然に呼吸(いき)している】【とてもラクに呼吸(いき)している】と心の中で暗唱しながら、ゆっくり自己暗示をかける。

⑤腹部温感練習・内臓調整練習
『お腹が温かい』
『胃のあたりが温かい』
これは消化管や内臓機能のチューニングを狙ったもので、心理生理的に四肢温感練習とともに緊張緩和効果、中枢神経活動への鎮静効果が高いので、ストレス過多、過敏の改善に効果があります。右手を軽くお腹に当て、右手の温かい感じがお腹へと伝わっていくというイメージを浮かべて練習するとわかりやすいと思います。

公式ワード例:【お腹が温かい】【胃のあたりが温かい】と心の中で暗唱しながら、ゆっくり自己暗示をかける。

⑥額涼感練習
『額が心地よく涼しい』
腹部温感練習までが、心理的リラックス効果と鎮静、生理的に筋弛緩と血管拡張を狙った練習でしたが、これは逆に適度な内的覚醒と緊張という俗に言われる“頭感足熱”状態を作り出す目的があります。と同時に、標準練習をまとめ上げる効果もあります。

公式ワード例:【額が心地よく涼しい】と心の中で暗唱しながら、ゆっくり自己暗示をかける。

この練習をする際に注意していただきたいことがあり、額の一部に注意を固定したり「涼しい」の代わりに「冷たい」という言葉を使わないようにしてください。感覚がわかりにくい人は、額を濡れタオルで軽く拭いてみたり、そよ風が額を撫でていくイメージを浮かべてみてください。

以上をまとめて練習する場合は、

安静練習→重感練習→安静練習→温感練習→安静練習→心臓調整練習→安静練習→呼吸調整練習→安静練習→腹部温感練習→安静練習→額涼感練習→消去動作

と進めてください。

消去動作とは、両手開閉運動や両肘屈伸、背伸びや深呼吸をして最後に目を開ける・・・で、練習終わりにすぐ目を開けたり、立ち上がろうとして目眩などの不快症状を避けるためにおこなう動作ですので、練習の終わりに取り入れてください。

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